2025.10.12
目次
個人事業主として活動してきた方にとって、「法人化」は一つの大きな転機です。
この記事では、法人化とは何か、個人事業主との違い、法人化することで得られるメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
節税効果や信用力向上といった利点の一方で、コストや手続きの煩雑さといった注意点も存在します。これから法人化を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

事業が軌道に乗ってくると、よく耳にするのが「法人化」という言葉です。
法人化とは、個人で営んでいた事業を法人(会社)に切り替えることを指します。節税や信用力向上といったメリットがある一方で、事務手続の複雑化やコスト増加といったデメリットも存在します。
法人化に関して、個人事業主との違いや法人化を検討すべきタイミング、対象となりうる事業者について解説します。
個人事業主と法人の最大の違いは、「法律上の人格があるかどうか」です。個人事業主はあくまで個人として事業を営んでいるのに対し、法人は法的に独立した法人格を持ち、個人とは別個の存在になります。
この違いはさまざまな場面で影響します。
たとえば、契約や融資の場面では、法人の方が信頼性が高く見なされることが一般的です。また、個人事業主は所得税が適用されるため、稼げば稼ぐほど税負担が増加するのに対して、法人は税率が一定の法人税が課されるため、利益が大きくなればなるほど、法人の方が節税効果が高くなります。
さらに、役員報酬の設定、退職金制度の整備、役員社宅の活用等により、経費の範囲が相対的に広くなるのも、法人の特徴です。
法人化を検討すべき明確な基準はありませんが、以下のような状況に当てはまる場合は、法人化を検討する良いタイミングといえます。
・個人事業主としての年間所得が900万円を超えた場合
所得税の累進課税が重くなる前に、法人税で節税を狙う選択肢が現実的になります。
年間所得が900万円を超えたタイミングで、一度専門家に相談することをおすすめします。
・年間売上が1,000万円を超えた場合
売上高が1,000万円超となった場合、その2年後から消費税の納税義務が生じます。
このタイミングで法人化することで、さらに消費税の免税期間を最大2年間延長できる場合があります。。
※インボイス制度の導入に伴い、2年間の消費税免税が適用されない場合があります。
・外部との取引で法人化を求められる場合
「株式会社」や「合同会社」といった法人のみと取引を行う企業も存在します。そのような企業と取引を行うために法人化することもあります。
・従業員を雇用し始めるタイミング
法人では社会保険への加入が義務化されていることから、従業員の視点では労働環境が整備されていると感じることができ、人材を確保しやすくなります。
こうした状況が重なると、税務面・組織面・信用面などにおいて、法人化のメリットが現れてくるでしょう。
法人化を検討するタイミングについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
一方で、全ての個人事業主が法人化すべきかといえば、そうとは限りません。法人化に向いているのは、次のような特徴を持つ事業主です。
・売上や利益が安定して増えている事業主
不安定な収益では法人の維持コストが負担になるため、収益の見通しが立っていることが前提です。
・長期的に事業を拡大していく意向がある方
事業規模を拡大したり、従業員を雇用していきたいと考えているなら、法人化による組織的な運営が有利に働きます。
・対外的な信用が重要な業種(IT受託、製造、建設など)
取引先が法人との契約を前提としているケースも多く、法人化することでビジネスの幅が広がります。
・資金調達や融資を視野に入れている方
銀行やベンチャーキャピタルからの資金調達を考えている場合は、法人であることが前提となるケースが多いため、早めの法人化が選択肢になります。
一方で、趣味に近い副業や、収益が安定していない段階では、法人化の手間とコストがデメリットになることもあるのです。
「いつか法人化しよう」ではなく、「なぜ法人化したいのか」を明確にしてから行動することが重要です。

法人化には、税制面の優遇や経費の幅、社会的信用の向上など、様々なメリットがあります。
ここでは、法人化によって得られる代表的な5つのメリットを詳しくご紹介します。
法人化すると、所得に応じて最大55%近くにもなる個人の累進課税に比べ、法人税率はおおむね15〜25%程度に抑えられます。
役員報酬や家族への給与支払いなども経費になるため、適切な設計を行えば節税効果が高まります。
法人では、個人事業主よりも広範な費用を経費として認められる傾向があります。
たとえば、役員報酬、社宅なども一定の条件を満たすことで経費計上が可能です。
法人化することで、商号に「株式会社」や「合同会社」といった会社の種類を含める必要があります。
また、登記や決算公告の義務が発生することで、客観的な信用力が高まり、金融機関の融資審査や取引先との契約交渉も有利に進めやすくなることがあります。
個人事業主の場合は、1月1日〜12月31日が課税期間として固定されていますが、法人では事業年度を自由に設定できることから、任意の月を決算期に設定することができます。
そのため、繁忙期や資金繰りが苦しくなるタイミングを避けて決算期を設定することも可能です。
法人は、赤字となった年度の欠損金を最長10年間にわたり繰り越して、将来の黒字と相殺することができます。個人事業主で純損失が生じた際、必要な要件を満たしても3年しか繰り越すことができません。
これにより、利益が出た年に過去の赤字を活用して法人税を抑えることができるため、赤字になった場合も長期的には節税を実現することが可能です。。

法人化には多くのメリットがありますが、その一方で注意しておくべきデメリットや運営上のコストも存在します。
ここでは、法人化を検討するうえで知っておくべき重要なポイントを整理してご紹介します。
法人を設立する際には、登録免許税や定款認証費用などで約20万円程度の初期費用が発生します。(株式会社の場合)
さらに、法人設立後も税理士費用や事務所家賃、人件費、社会保険料など、個人事業主よりも維持管理コストが高くなる傾向があります。
法人の場合、たとえ赤字で利益が出ていなくても、「法人住民税の均等割(年間7万円〜)」が最低限発生します。
これは地方自治体に納める税金で、売上に関係なく定額で課されるため、創業初期で利益が出ていない時期には負担に感じることがあります。
個人事業主は、白色申告の場合は簡易な方法による記帳が認められていますが、法人では、複式簿記による記帳が義務付けられています。また、法人税申告書の提出や官報への決算公告等、事務作業が複雑になる傾向があります。
申告内容や勘定科目の正確性が求められるため、税理士との顧問契約が実質的に必須になるケースも多いでしょう。
法人にすると、代表者1人だけでも社会保険(健康保険・厚生年金)の加入が義務となります。
これは個人事業では任意であるのに対し、法人では強制適用されるため、保険料負担が事業主・会社双方にのしかかる点がデメリットになり得ます。

法人化には、節税や社会的信用の向上など、多くのメリットがあります。
特に、一定以上の売上や取引規模がある場合には、法人としての体制がビジネスの信頼性や成長の後押しとなることも多いでしょう。
一方で、設立・維持にコストがかかることや、会計・税務処理の複雑化、社会保険料の負担増といったデメリットも無視できません。
特に創業初期や個人で完結する小規模事業では、かえって負担となるケースもあります。
そのため、法人化を検討する際には、税務・社会保険・資金繰り・事業戦略など、総合的な視点での判断が必要です。
迷われている方は、ぜひ私たちリゾルト税理士法人へご相談ください。
お一人おひとりの状況に合わせて、最適な選択肢をご提案いたします。
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